H&Bは、J&Bではない
パキスタンの首都イスラマバードのほこりっぽい道路を西に行くと、免税店がある。免税店といっても、見た目はふつうの家で、ふつうっぽい愛想のないオヤジが店番をしている。
オヤジは「なーんでもあーりまーっせ。」みたいにいうのだが、
「んじゃ、ラフレグの10年もの。」とか、
「アドベグはどんなのがあるかな?」なーんていうのは、喧嘩を売っているようなもんだ。
ここは世界の果てから、さらに15km走ったような場所だ。
事情通によると、その店を利用できるのは、公用旅券を持っている、要するに外交官か、それに準ずる例えば日本ではJICAみたいな公的機関に勤める外国人のみ。同じ公用旅券でも、産業省とか貿易省に駐在しているアドバイザーとかコンサルタントみたいな外国人専門家には売ってくれない。
なんたら省に駐在している専門家ほど、賄賂としてのアルコールを必要としている。我輩なぞがそういう店を利用するときは、自分が飲みたい酒ではなく、たとえば産業省に駐在している元商社マンのN瀬氏が必要としているブツを調達するため。
イスラマバードの場合、N瀬氏によると、求められているのはスコッチではなくウォッカ。なんでかというと、すぐに酔えるから。パキスタンの高級官僚は、犠牲祭みたいなオケージョンで、味わって飲むのではなく、酔うために飲む。
長瀬氏のためにウォッカなど仕入れ、まだ取得本数に余裕があったら、自分のソーダ割りのためにスコッチを買う。店番のオヤジが「何が欲しい?」っていうから、ダメもとで「J&B」といったら、H&Bが出てきた。
それが今世で、H&Bを知ったはじまり。
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J&Bをストレートで飲むと、ピリッとした安酒感がある。H&Bにはあんまりそれがない。H&Bは1000円くらい。J&Bはすっかり高くなって、1600円とか1800円くらいするようになった。酒の値段というのは、あってないようなもんだ。
ニューヨークのグリニッチビレッジのビレッジコーナーという店でほぼ毎晩ピアノを弾いていた盲目のランスが、休憩時間のカウンターでいつも飲んでいたのがJ&B。ランスは結構な額のギャラをキャッシュでもらっていたので、もうちょっといい酒を飲めたはずだ。でもずっとJ&Bだったのは、店がタダでランスに出せる上限がそれだったんじゃないか。ランスはそれを、タダ酒だから我慢して飲んでいるというよりは、ほんとうにうまそうに飲んでいた。ランスの誕生日会に、J&Bブランドのちょっといいやつを持っていったら、すごく喜んでくれた。
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H&Bを見かけるたびに、イスラマバードの免税店を思い出し、韻を踏んだJ&Bつながりでニューヨークのランス・ヘイワードを思い出す。そしてどこか(おそらく中華喰うか)に書いたはずの同じ内容をあらためて書き直し、そういうするうちに酔っ払ってしまう。
ま、それだ。
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