日曜日は内儀と二人で外出。 蕎麦探偵。
唐沢そば集落は何度か通った。内儀は5件を制覇したらしい。この日は行ったことがない蕎麦屋を探訪。「そば幸」は、大きな農家の母家をそのまんま店にした感じです。玄関で靴を脱ぎます。入って左手は厨房と客室の小部屋。右手に大広間。中央奥に階段があるのは、おそらく中二階か天井裏へのアクセスでしょう。
諏訪の多くの農家では、天井裏で蚕(おかいこ様)を飼っていたそうです。夜は蚕が桑の葉を食べる音がうるさいくらいだったとか。そんなお蚕様も、繭を取るために茹でられてしまう。繭をとったあとのお蚕様も無駄にせず、砂糖醤油味で煮たり炒ったりされて、飯のおかずとか酒のあてになる。我輩も師匠のところで、便所虫そっくりの蚕のスナックを出され、ありがたく頂戴しました。美味かった。貴重なタンパク源やし。
こういうのを「こんな高価な珍味を頂きまして」なあんて言いながら旨そうにもりもり食べると、諏訪人が心を開いてくれるんだ。本当にイケるし。コメと一緒に乾燥されたイナゴなんて、脱穀のときに落ちてくるのをいっぱい食べたら、口の中が金属くさくなるけれど。でも地元の伝統食をいっぱい食べたら好かれる。これはイラクでもマレーシアでもインドネシアでもタイでもそうだった。出されたものを旨そうに(それがたいてい旨いんだ)大量に食べると友達になれる。旨そうにもりもり食うだけ。岸っやんみたいにうだうだ言う必要はない。我輩はアフガニスタンにいっても、タリバンと友達になれるんじゃないかと思う。外交官試験に、ワケのわからんものを旨そうにもりもり喰うっていうのはないのかね。
いま闇勢力が流行らそうとしているコオロギより、お蚕様のほうがよっぽどいい。コオロギみたいな肉食の虫はなま臭いし、エグい。お蚕さまとかイナゴは草食なので、あっさりしている。虫を喰ったことがない奴らが、つまりテイストがわからないアホがキャンペーンを張るとピンボケになるという好例だ。いきなりコオロギって、ハードル高いでしょ。タイランドではタガメを唐辛子炒めする。イナゴや蚕に抵抗のない我輩でも、タガメみたいな肉食系とかゴキブリみたいな雑食系は敬遠する。生臭いから。コオロギも遠慮する。ほんと生臭いよ。自分らで普段食ってない奴らがイデオロギーだけでキャンペーンしたら、味覚がついていかないんだ。
国連会議の晩餐会でコオロギを唐揚げで出してみろ。タイランドの代表以外、全滅だぞ。
閑話休題。諏訪では養蚕が盛んだったので、岡谷などで製紙業が発達し、「嗚呼、野麦峠」みたいな物語もできた。女工さんをたくさん雇ったので、女性の社会進出もふつう。茅野出身のスピードスケートの小平奈緒さんだって、おじいちゃんおばあちゃんっこだよね。このへんではお母さんが働いているのがふつう。それが岩波に代表されるリベラルな風土を育てたのでしょう。テルマエロマエのロケ撮影に使われた片倉の温泉がプールみたいになっているのは、片倉紡績で働いていた女工さんを一度にたくさん入浴させるためとか。いまの福利厚生の先鞭だな。戦争の空襲を恐れたセイコーが東京から諏訪に工場を移転して、たんと移住してきた時計職人たちと、働きものでかわいい女工さんたちが恋におち、時計職人が永住し、それがエプソンの基礎になったとか。御柱祭で垣間見れる原始的タリバン性と、岩波的リベラルさが同居する不思議な空間だ。それには因縁がある。
おっと閑話休題。ついつい諏訪について語ってしまった。トシに加え、蕎麦焼酎「峠」のせいです。
塩尻の向こう、岐阜の手前の山形村は、別世界。この日、塩嶺トンネルを抜けると雪景色。天気予報によると金曜日は珍しい大雪、と言ってたのだけれど、富士見では金曜日の夜から雨がバラバラ降っていました。塩尻も同じだろうと思い込んでいたら、とんでもない。雪だったようです。雪を天井にのっけた自動車が走っています。せっかく洗車したのに、また汚れましたね。
「そば幸」で案内されたのは大広間。まずお茶と漬物。お茶のポットが、昭和の象印の花柄。母家の家屋と調度そのものだけじゃなくて、何から何まで昭和のものを大切に使っていると言う雰囲気が濃厚。庭の眺めが素晴らしい。
お運びさんが、愛想のいいよく似た若い姉妹。ときどき厨房から明るい笑い声が聞こえるのがいい。うちも娘ふたりなもんで。女の子は華やかだね。
頼んだのはもりそば。天ぷら八品盛り合わせ。きのこ和え。天ぷら八品は、ふきのとうなど季節の山菜、山芋、カボチャ、えのきだけ、しめじ、舞茸など。どれも健康的でうまく、特にそばはスムーズ。つけ汁は甘口で関西人の我輩には嬉しかった。蕎麦湯は白濁してとろみがある濃厚さ。蕎麦湯がよくわからん我輩も、二杯注ぎました。
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