オハというのは諏訪のあたりの惣菜。油で炒めた野沢菜に甘めの味付けがしてある。たぶん「御葉」なのだろう。 まつりのオヤジがこのオハを大量にくれる。 我輩がいわゆる「まつりのオヤジ」というのは、正確にいえばまつりという飲み屋をテナントにしている家主のオヤジである。知る人ぞ知るユニークな飲み屋としてのまつりのオヤジとは別人物である。 2年まえの3月の朝、いつものように通勤途上でまつりの前を通りかかると、寒いなかオヤジが茫然と立っていた。 「うちのやつが冷たくなっちまってさ」と言う。 明るくて元気だったおばちゃんが朝の2時に脳溢血で死んだのだ。 オヤジとおばちゃんは毎年シーズンになるとオハを大量につくっていた。 オヤジはいまでも同じくらいの量を生産しているようだ。おばちゃんのレシピで、亡き愛妻を偲びながらつくるのだろう。 おばちゃんコネクションで分配されていたオハを、我輩が頂いているんではなかろうかと思う。それくらいの量をくれる。 うちで毎朝食卓で玄米粥とオハを食べ、弁当にも入っていて、夜も食べる。それでもなくならないオハが、週に2回くらいのペースで補給される。 月子はオハで「おやき」を作った。 おやきというのは信州のおやつで、野菜などの具をそば粉や小麦粉でつくった皮で包む。なかなかうまくできたとのことだが、オハの在庫はなくならない。 内儀はオハ炒飯とオハ焼きそばを考案した。これがなかなかよろしい。昨日、土曜日の朝はオハ炒飯、夕食はオハ焼きそば。今朝、日曜の朝はオハ炒飯。 これでようやく在庫の底が見えてきた。